天の川スープと七つ星トルテのお話

星が美しい冬のある夜 旅人は一人 暗い森の中を歩いていた
空気は凍るように冷たく おなかはペコペコ 今夜の寝床はどうしたものか
月はこんなに明るいというのに 心はこの森よりも暗い
するとどこかから漂ってくる あたたかでおいしそうな風
においに誘われ歩いてゆくと 木々の間に小さな家が見えてきた
はて こんなところに人が住んでいるものだろうか

風に導かれるままに 扉をたたいてみたならば
そこにはそっくりな顔をした7人の美しい娘たち
7人姉妹が囲んでいるのは 牛をまるごと煮込めてしまいそうな大きな鍋

何をつくっているんだい

星のスープよ 今夜は星がとてもきれいに出ているから
さああなたもこっちへいらっしゃい いっしょにスープを作りましょう

長女アステロペが大鍋の前に進み出た
まずはたまねぎいためましょう 飴色になるまでじっくりと
次女メロペが大鍋の前に進み出た
さてさてこむぎこいれたなら 焦げないように気をつけて
三女エレクトラが大鍋の前に進み出た
お次はにんじん だいだい色の魔法をかけましょう
四女エマイアが大鍋の前に進み出た
忘れちゃいけないブロッコリー スープに緑のアクセント
五女タイゲタが大鍋の前に進んでた
しめじにしいたけ 季節のきのこをたっぷり入れて
六女ケラエノが大鍋の前に進み出た
じっくりやさしく煮込みましょう とろけそうになるまで

ぐつぐつ ぽくぽく
ぐつぐつ ぽくぽく

最後に末っ子アルキオネが大鍋の前に進み出た
ここが肝心最後のしあげ
旅人たちが見ていると 姉妹たちは大鍋を囲んで
歌い踊り始める
それははじめて聴くような どこか懐かしいような不思議なリズム
にんじん たまねぎ きのこにブロッコリー
透明な宇宙にうかぶ 森の野菜たち
にこめ にこめ オリオンが追いかけてくる前に

元気が出るよ あったかスープ
スープがおいしくなるコツは もてなす心を入れること
うたえ おどれ ひかりあれ
星の魔法がかかるまで

するとどうでしょう
満点の星がまるで雨のように降り注ぎ
きらきら きらきら
まぶしくて目もあけられないほどの星のひかりは
大鍋の中にすいこまれていく
さあ あなたもいっしょに
旅人はわけも分からず白いひかりの中 姉妹たちと共に
くるくる くるくる
あたりがやっと再び暗くなったそのとき
どこまでもすきとおって透明だったスープは
まるで星空のようなやさしい色の
真っ白なスープに変っていた


白いスープの宇宙には
とろとろになるまでにこまれた
星のかけらたちが浮かんでいる
あっちっち はふはふ
あたりにはいつの間にか
森の不思議な生き物たちもやってきて
奇妙な夜のパーティのはじまり はじまり
旅人さん これまでの旅の話をきかせておくれ
おいしいスープを飲みながら
語り合い歌っているうちに
旅人のこころとからだはすっかりあたたまり

気づけばすっかり寝入ってしまった

太陽に照らされ目覚めたときは 再び何もない森のなか
姉妹も家も跡形もなく
ただのゆめか
いやいや今もぽかぽかとしているこのこころが
まぼろしのはずがない
ふとみると大きな箱がかたわらに
開ければそこだけ夜に戻ったような
七つの銀の星が輝く つややかなケーキ

“プレアデス姉妹のスペシャルトルテをお忘れなく”

明るくやわらかい光の中で
旅人は昨日の夜の不思議な出来事を思い出しては
ほくりと微笑みを浮かべ
おみやげのデザート片手に森の中歩き出した

今は見えない天井の七つ星を
そっと見あげながら